>Vol.117
>理事長トーク
HOME

タイトルバー

竹川理事長先生のお話を伺って、健育会の創立者のことが思い浮かびました。リハビリテーションという言葉がまだ一般化していない1965年頃の話です。今でいう急性期の治療を終えられた方が元気な身体を取り戻すために、温泉を活用しながらより専門的で集中的なリハビリテーションが可能な病院を目指して熱川温泉病院を開院したのです。創立者は、医療の枠にとらわれずに、良いと考えられることは積極的に導入していました。

竹川理事長

酒向先生そうでしたか。私も医療の枠にとらわれない発想の大切さを実感しています。脳リハビリ医になってリハビリを続けていると、患者さんは病院では確かに元気になるのですが、しかしお家に帰るとこもってしまって段々と動けなくなってしまうという問題に直面し、退院してからも患者さんを外に出すことの大切さを感じました。つまりそこにはハードとソフトが必要になってくるのですが、私はそのような医療を超えた「街づくり」の重要性を感じ、今ではライフワークとしています。リハビリを終えた患者さんが、家に帰った後も病院に頼らず、日々の生活を楽しく送れる街をつくるために各方面と協力して取り組んでいます。

竹川理事長よく大学の講義で学生さんに話すのですが、日本の医療の問題に、健康寿命と平均寿命の間に男性で9年、女性で13年という大きな差があるということがあります。私は「この健康寿命と平均寿命の差を短くすることができたら、日本は他の国に先駆けて健康先進国として世界ナンバー1になれる」と考えているのですが、先生の街づくりへの取り組みも、病後の患者さんが生き生きと暮らせる街づくりという意味で、健康先進国につながっていくのではないでしょうか。

酒向先生はい。まさにそのように思います。私のリハビリのテーマは「人間回復」ということなんです。私は、脳神経外科医であった経験を生かして脳卒中の患者さんの脳画像から、どのような後遺症が出るかを予測し、その上でその方の能力をどこまで引き出せるかを想定し、限界近くまで「攻めのリハビリ」を行っています。失いかけた人間性を取り戻すためには、私はそのような攻めのリハビリが必要だと考えています。しかし、退院して家に閉じこもっていると、運動機能だけでなく、認知力も落ちてしまい、せっかく病院で人間回復しても、その人らしさがだんだんと失われていきます。その人らしさを維持するには、運動をして、いろいろな方とコミュニケーションをして、またその人なりの趣味に取り組むことなどが大切です。それができる街は、不幸にも病気を患った人が人間回復できる街であり、健康な人がより健康に過ごせる街、すなわち「人間を元気にする文化」がある街そして国につながっていくことだと考えています。

酒向 正春 先生著書 「あきらめない力」

理事長トーク