私は、医学部生時代に「人の命は地球より重い」と教わりました。大学卒業後、研修医として大学病院に勤め始めた頃に、ある著名人が入院してきたことがあります。その著名人の治療には、大学病院が全力を挙げて取り組み、無事に退院させることができました。もちろんそれは良いことなのですが、一方で私が感じたのは「人の命は平等ではない」ということです。他の患者さんにはしないような、手厚い治療が行われていました。
このように現実には人の命は平等ではありませんが、人間の尊厳は公平に扱うべきだと私は思います。公平に扱うとはどういうことかと言うと、社会に合った医療を医師が提供するということです。今、世間で「ACP」という言葉が大変話題になっています。ACPでは、患者さんやそのご家族と話し合いながらも、医師がイニシアチブを取らなければいけません。ご家族は、1秒でも長く患者さんに生きて欲しいと思うものです。しかし、それは患者さん本人を苦しめることになり、引いては国を苦しめることにもなりかねない。医師がご家族から信頼を得た上で、そのことを説明すれば、理解していただけるはず。社会に適用した医療を行うためには、医師が患者さんやそのご家族との信頼関係を築くことがその第一歩になる、ということを学生の皆さんにお話しました。
硬いテーマの後は、同じ大学の先輩、後輩として、学生の皆さんが希望する医科や日頃の生活、私の学生時代についてなど、ざっくばらんに話をしました。私は獨協医科大学の2期生で、当時の教授は全員他大学の出身でした。しかし、現在は平田先生をはじめ同校出身の教授がたくさんいます。平田先生は、獨協医科大学病院の院長も兼任されており、身近に良いお手本がいるのは大変良いことだと思います。また、私が学生の頃に比べると、今の学生は大変真面目です。獨協医科大学で多くのことを学び、一人でも多くの患者さんを救える良い医師になってほしいと願っています。