著名な詩画作家・星野富弘さんは中学の体育教師時代に鉄棒から落下して頚椎を損傷。寝たきり生活になり、人生に絶望して自殺を考えましたが、リハ病棟で車いすに乗りながら口に筆を加えて絵をかいている人を見て、自分にもできるかもしれないと思い、それが今日の星野さんを生んだと思います。
リハビリテーションで国際的評価の高い我が国の先駆者である上田敏先生は「リハビリを単なる手足の機能回復にとどめず、全人間的復権がリハビリの本来の思想である」とは指摘されました。上田先生は、看取り期であろうと最後まで人間としての生活を支援し、生きることを追求されました。その考えを改めて教えられた症例だったと思います。
デンマークの社会運動家バンク・ミケルセンは、障害者にごく当たり前の生活を保障する福祉の原則「ノーマライゼーションの理念」を提示しました。現在残念ながら福祉施設や精神病院で起きている虐待などの事件は、まさに反ノンマライゼーションの考え方が根源となった管理的な統制が問題なのではないでしょうか。
10数年前、京都府のある有料老人ホームから介護困難で移された女性がいました。私がお会いした時は意欲喪失され、暗い表情でしたが、新しく入った彼女は利用者の自治会で役員選挙に立候補させられ、壇上で立候補の挨拶をすると往年の経験が蘇り、皆さんの拍手をしっかり受け止めて自信を回復されました。さらに利用者さんの信頼を受けて副会長に選ばれてまとめ役になり、最初のことが嘘のように回復された例があります。
健育会の理念でもあるプロフェッショナルの追及は、可能性の哲学であり、諦めないことだと思います。そういう点で福祉の第一戦で活躍される一番ヶ瀬康子先生のお考えと大変共通していると思いました。改めて健育会の未来の実践に生かしてほしいと思います。
現在深夜に放送されている「リエゾン」という医療ドラマで、患者さんについて単なる客観的な情報にとどめずに、本人の痛みを共有しなければ本来の自立は困難であるということが描かれています。リエゾンは、フランス語で連携や絆という意味で、まさに今回のチーム医療のテーマと関連します。
今回の症例をぜひそれぞれの職場で活かしていただきたいと思います。ありがとうございました。