もう1つ、今年から「愛情を持った親身な対応」という大きなキャッチフレーズを掲げました。これは私が2例の症例を目の当たりにして考えたもの。一例は、寿司屋で見かけたダウン症候群の親子です。31歳の息子さんは非常に明るく素直に育っていて親の愛情はすごいと改めて実感しました。二例目は同じ日の夜、イギリスBBCの放送で自閉症の子供を持ったミュージシャンが子供に合った学校を一生懸命探して通わせ、普通の子供と同じように育っているという映像を見て、やはり親の愛情はすごいと驚きました。
親の愛情が生命力、生きる力を育てます。病気を患って生きる力を失った患者さんもスタッフが親に変わって親身な対応をすれば、人間は自然治癒力が増すと思います。ただ、愛情という言葉は科学者として本来言うべきことではないのかもしれません。医学部では治療に情を入れるな、科学は物体だと思えと習いましたが、それだけでは他の病院と同じ。高い技術を持った医療スタッフが愛情を注げば生命力、治癒力が高まるということを実感したのでこのキャッチフレーズを作りました。
特に患者さんのオキシトシン、セロトニン、ドーパミンという3つのハッピーホルモンがバランスよく出るように工夫してみてください。皆さんの対応1つで患者さんはうつにもなるし、逆にハッピーにもなります。
最後にお伝えしたいのは、人間の尊厳を平等に扱ってほしいということ。人の命を平等に扱いたいけれど、現実は平等ではありません。しかし人間の尊厳は皆さんの気持ち1つで平等に扱うことができます。どんな患者さんでも尊厳だけは平等に扱わなくてはいけないのです。これは絶対に肝に銘じてください。
そのために私から皆さんに約束することが3つあります。一つは、仕事のやりがいが持てるような職場環境を整備すること。忙しくてもやりがいが持てる職場であれば、人生の夢を考える心のゆとりができるはずです。2つ目は、医療、介護に携わる使命感を育てること。初めから使命感がなくてもいいのです。私も医者の息子で何も考えずに医学部に進みましたが、いろいろ勉強する中で使命感が身につきました。ですから健育会では皆さんにたくさん勉強してもらいます。3つ目は、理事長である私が全ての責任を取るということ。24時間365日、 世界中どこにいても連絡が取れるようになっているので、何事にも安心してチャレンジしてください。
午後の研修では、はじめに話したトラジックモーメントとマジックモーメントを実際に体験してもらうため、全員参加型のロールプレイングを実施。他施設のメンバー同士で構成された21グループに分かれ、全員に配役を割り振り、患者さんとのコミュニケーションで考えられる6通りのシチュエーションで練習してもらいました。
新入職員の皆さんには、これから健育会グループについてよく理解し、使命感を身につけて、やりがいと夢を持って職務を全うしていってほしいと思います。これからの皆さんの活躍に期待しています。