先代である私の父は、今から60年前に熱川温泉病院を設立しました。当時はまだリハビリテーションという概念そのものがなく、温泉療法が主な治療でした。
その後、上田敏医師がリハビリテーションの概念を日本に取り入れられたことで、この分野は広く普及していきます。
当時のリハビリテーション医療の主流は、患者さんのADL向上を最優先とした「利き手変更」を行っていました。しかし、父は「麻痺によってわずかにでも指が動いているのなら、小指と親指を少しずつ動かせば脳は必ず活性化するはずだ。安易に利き手を変えるのはおかしい」と、当時の常識に異を唱えていました。
道免先生が推奨されているCI療法は、先代の父がまさに感じていた疑問を見事に払拭する、常識を覆す画期的な治療法です。
新しい療法であるがゆえに、世間からのバッシングもあったと聞きますが、そうした中でも果敢にチャレンジを続ける道免先生のご活躍と、父が残した言葉が私の心の中で深く重なり合い、ぜひ先生から直接、その信念に裏打ちされたお話を伺いたいと強く感じました。
道免先生は、リハビリテーションにおける医師の役割を「チーム医療の指揮者」だとおっしゃっています。これは、患者さんの筋力や病態、生活環境などをすべて把握し、ゴール達成のためにどのような治療が必要かを判断し、それをセラピストをはじめとするチーム全体に共有していく役割です。
本日お集まりの先生方の中には、リハビリテーション専門医の数は多くないかと思いますので、道免先生のような「チーム医療の指揮者」になるのは難しいかもしれません。
しかし、皆さんは患者さんを中心とした「医療チームのリーダー」になることは十分に可能です。
患者さんやご家族はもちろん、セラピストやナースも、医師である皆さんには大きな信頼を抱いています。医師という立場は、あらゆる角度から信頼されているということを、今一度、深く自覚していただきたいと思います。
たとえ専門外であったとしても、リハビリを行っている患者さんがいれば、セラピストと同じ言葉で対話し、患者さんが今どのような状況にあるのか、ご家族に医師の口からしっかりと説明できる存在になってください。
患者さんやご家族は、「セラピストだけでなく、先生もちゃんと見てくれているんだ」と安心し、その一つひとつの積み重ねが、揺るぎない信頼へとつながっていくはずです。
リハビリテーション医療が確立されていく中で、医師が患者さんと深く関わっている病院は、まだまだ少ないのが現状です。
だからこそ、皆さんが「医療チームのリーダー」として機能し始めることは、他の病院にはない大きな差別化につながります。これは、単なる医療の質の向上に留まらず、私たちのグループ全体の経営戦略にもなり得るのです。
皆さんには、患者さんが医師という存在に対し、ご自身が思っている以上に強く、深い信頼を抱いていることを改めて意識し、その期待に応える行動を心がけていただきたいと思います。

