審査結果発の後、長谷川先生から下記のような講評をいただきました。
最優秀賞、優秀賞を受賞した3チームの皆さん、おめでとうございます。褥瘡やベンゾジアゼピン薬、食事についてなど、いずれも生活に密着している上に重要なテーマでした。私は病院機能評価の仕事をしていて、近年はベンゾジアゼピン薬を無闇に投与する病院は失格になります。時代は変わっており、この演題の質疑応答で補足していただいた西伊豆健育会病院の仲田和正院長のコメントは大変的を射ていたと思います。
全演題を聞いて、今年は大きく分けると3つの特徴があったと感じました。まず、従来から見られた質に対する関わりを大きな柱にしたものです。ポジショニングや睡眠薬をテーマしたものは、その代表だと思います。また、施設側の都合による訪問看護のキャンセルを減らすために、わかりやすく目標を提示して、人員を増やさずにチーム分けや情報共有の仕組みを工夫するという取り組みもありました。他にも手術期のレベル1以上のインシデントを減らすことで処置や手術のキャンセルを減らす活動など、ロスをなくして今ある資源を有効に生かすということも、今までとは異なる質に対する見方です。これらの発表を聞いて、質という概念が広がってきたと思いました。
次の特徴は、ICTを使ったSNSなどでの情報共有が進んできたことです。今まで医療や介護の現場では、ICTに対する抵抗が強かったのですが、コロナ禍によって導入せざるをえなくなりました。介護では利用者に高齢者が多いということがありましたが、一度使い始めれば情報共有だけでなく業務効率も良くなります。今回の演題の中で、いくつかの施設がICTを積極的に活用しており、大変心強いと感じました。
3つ目の特徴が、コスト削減です。竹川病院や西伊豆健育会病院、熱川温泉病院など昔から健育会グループに所属している病院は、原点に立ち返ってコスト削減を見直そうという動きが見られます。20年以上前に、竹川先生から依頼を受けて西伊豆健育会病院を拝見したことがありました。ナースステーションに行ってみると、注射針は1本何円というようなことが書いてあって、当時から原価意識が普及していました。
全体を振り返ってTQMに関するテクニカルな話をすると、まず大事なのはチーム編成です。TQMの基本は多職種。病院にはたくさんの職種があり、全員が専門家のためお互いが何をしているのかよくわかっていません。部署内だけの活動は比較的立ち上がりが早く、TQM活動に慣れていなければそこから進めても良いのですが、できれば多職種に参加してほしいですね。そうすると風通しが良くなり、お互いが何をしているのかよくわかります。また、職種によって見方が違うので、新鮮な見方を共有して刺激にもなります。私が発表の要旨を見るときには、まずどんな職種が参加しているのかを確認します。
次に重要なのが、目標の設定です。目標を設定するためには、健全な疑問がないといけません。日々の業務を進めながら、どこに改善の余地があるのか考える必要があります。そして、できるだけわかりやすく目標を提示することです。同時にその目標は、本当にやりたいこと、真の目標であった方が良いと思います。例えば職員の理解度を上げるという目標を設定したとします。しかし、その先にあるのは、患者や利用者へのケアやサービスの質を上げたいということです。極論を言えば、理解度が低い職員がいたとしても十分なケアやサービスを提供できるのであれば、その方が良い目標になります。目標をわかりやすく提示して共有することが、ワンチームの基本的なスタートラインになると思います。
そして、実際に活動を進めていく上では、標準化が大事です。目標を達成するためには、プランを立てます。このプランが、仮の標準です。目標を達成できなかったとしたら、その原因は標準を守っていないか、標準そのものが間違っていたかの2つしかありません。標準の遵守と目標の達成を確認することは、TQM活動の一番の基本。それが管理です。しっかりと管理できるかどうかも、TQM活動の大きなポイントになります。
さらに、それぞれのTQM活動の最終的な目標は、強い組織を作るということだと思います。仕事というのは、同じことだけをやっていれば良いというものではありません。日々の業務に対する健全な疑問から発展や進歩が生まれます。何か思い立ったら、それを共有して取り組んでみるということが大切です。そのときに利用できる人や物、金、情報といった資源についても考える必要があります。その根幹になるのが質です。仮に今取り組んでいることがコスト削減だったとしても、その過程で発注業務の帳票を変えて工程を減らしたり、物品や不良在庫を減らしたりすると、ミスも減ります。質との関わりということを常に意識しておくと、健育会は今まで以上に強固な良い組織になると思います。