今から10年前になる60周年の際に、「ケアポート板橋」に天皇皇后両陛下が訪問された時のことをお話します。
当時の天皇皇后両陛下は、敬老の日の近くに高齢者施設へ公式訪問することが行事となっており、そこで民間の施設であるケアポート板橋が選ばれたのです。天皇皇后両陛下が民間の施設を公式訪問されることは、極めて異例のことでした。
選ばれた理由の1つが、ケアポート板橋はさまざまな実績に加え、EPAに基づいた諸外国からの介護人材の受け入れをいち早く行ったことなどが評価され、厚生労働省が宮内庁に推薦をしてご縁を頂きました。天皇皇后両陛下は1時間半ほど施設を訪問されました。
今年、健育会グループは71周年を迎えました。私が理事長になって約30年です。私が病院を継ぐ時には三つの選択肢がありました。一つは、病院を継ぎ、経営をしていくこと。二つ目は、大学病院に残り、医療に従事していくこと。三つ目は、研究者として医療研究に取り組んで行くこと。当時は大学病院での研究面でも一定の成果があり、米国での発表なども行っていたため、それはそれでやりがいを感じていました。そうした中で父親の後を継いで経営者になる道を選んだ時に、このまま同じことを続けていては経営は成り立たないと思ったのです。そこで考えたのが、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」のMVVという健育会の経営理念です。
まず、なぜミッションが必要なのか。これは組織が何のためにあるのか、という経営の基本的な考えを示します。まずは、病院、会社、法人すべてが利益を出して税金を納め、経済貢献すること。このことが国の形を維持することにつながります。もう一つは社会貢献。組織にとって、社会のために貢献することと同時に利益を出して還元することが経営の条件だと思います。
使命が必要であると考えたのは、何のために仕事があり、何のために経営をして、どのように社会・国に貢献するのか?ただ何となく病院を経営するのではなく、そういった「想い」が大切であると感じたためです。
当時、医療というものは国・行政が行うもので、民間が行うものは規模が小さく、レベルが低いという風潮がありました。一方で、世の中では、鉄道の民営化などが進んでおり、医療も例外でないと私は考えていたのです。そうして、医療の民営化を進め、様々な規制・考え方を変革していく「光り輝く民間病院グループ」という考え方を決めました。
理事長になってから10年もたたない2007年ころには、公立病院の民営化が推進されるようになり、時代の動きが、私が感じていたこととマッチしてきたと感じました。
病院が必要な場所なのに公立病院を作っても経営が成り立たない。そういった場所に健育会が病院を作ってそこの地域に貢献してきました。