本発表に出てきました「傾聴」は、介護においても非常に重要なポイントです。ややもすれば一方的に話しかけるなど介護者が上位に立ってしまう場合がありますが、本来コミュニケーションはこの「傾聴」が基本と言われています。「聞く」ではなく「聴く」、心の耳を傾けることです。
対象者の「自己実現」を十分にアプローチできた事例でした。文化的な欲求、趣味や学習にも支援を惜しまず取り組まれていたようです。また、食事は極めて重要なテーマ。かつて岡山孤児院で3000名ほどを支援した石井十次氏は「まず食によって心は満たされる」と話しています。食事とは一体何なのか――その意義を改めて考えさせられる発表だったと思います。
ライフケアガーデン湘南でも触れましたが、WHOの「ICF」の基本的思想の実践事例です。80年代は、医学的レベルを重視して「機能障害」「能力障害」「社会的な不利」を問題視していましたが、2001年以降は「本人が何をしたいのか」に焦点が当てられるようになりました。本事例では「編み物がしたい」「自由に動きたい」という本人の意思を最優先し、そのためにどのような支援をすべきかが考えられていました。
またQOLは一般的に「生活の質」と訳されていますが、一番ケ瀬氏はある意味で「人生の質」とも話されていました。この点も併せて考えてみてください。
「茶道」といった観点、私には気が付かないような事例でした。この根本にあるのは、今最も求められている「エンパワメント」――本人が持っているパワーをいかんなく引き出す、あるいは「ストレングス(強み、長所)」。この「エンパワメント&ストレングス」といった極めて強力な福祉の思想が、介護界にも入ってきていますが、その内容を十分に深めた事例です。私個人的に生活は“単なる生存”ではなく“生き生きと活動する”こととして捉えています。その点でも本発表は重要な例でした。
改めて「老人保健施設とは何か」その本質論を私自身考えさせられました。老健は限りなく自宅復帰が目的です。残念ながら特養系に類似した施設も存在しますが、基本的に、老健の基本的な趣旨、発祥(出発)は“自宅復帰を支援する”こと。今回の発表は傾聴に値するものだと思いました。