まずは「ミッション」についてです。組織の存在する意義についてのお話です。
先代から病院を継いだ当初は、病床は350床ほどしかなく、医師も数えるほどしかいませんでした。私は「病院を経営する意義が果たしてあるのか」ということを考えていました。
当時、世の中は民営化政策の過渡期にありました。丁度、国鉄が赤字経営になり、国で抱えることが不可能となって民営化した時期でした。全てを国が負担する必要はない、という考えが根づき始めたのです。
戦後、日本を復興させるべく国は全ての企業に対して補助金を出し、育成をしてきました。しかし日本が経済不況に陥り、高齢化社会への問題も抱えていく中、政府は民間の活力に頼り始めたのです。
その範囲の中に医療はあまり関わっていませんでした。医療を民営化してしまっては、患者さんの治療を優先させず、営利目的で利益を出す病院が出てくるのではないか、と危惧されたからです。
しかし、その一方で公立病院は常に赤字経営でした。一定のレベルの医療を行えば赤字になる、ということが当たり前の時代だったのです。
財政を国に任せ、それでいて経営が厳しいという問題を抱えていた当時の医療は、いつか滅びる、と私は考えていました。
更にその頃、ソ連では国の財政が崩壊しました。国が崩壊するという現象を目の当たりにしたのです。
国が崩壊してしまえばゴミも収集されず、水道も機能せず、もちろん医療機関も閉鎖されます。
国の医療機関が崩壊すれば、患者さんの命を守ることはできません。
国に頼ってばかりではいけない。このままでは日本もいつか医療が崩壊する、と私は強い危機感を持ちました。
この経験によって私は、質が高い医療を効率的に提供する、という発想に至りました。これこそが私の使命だと感じました。
私は健育会グループの「ミッション」に「光り輝く民間病院グループ」というテーマを掲げました。
民間病院が質の高い医療を効率的に提供しなければ、日本の医療は支えられません。
民間医療であっても力があり、患者さんを守ることができる医療体制を取り入れて、効率的な経営を行う。その先陣を切ったのです。
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「光り輝く民間病院グループ」という使命を掲げたばかりの頃は、医師や看護師の人数も少ないのが現状でした。
私はどうすればよりレベルの高い医療を提供することができるか、職員の皆さんの意見を日々伺いました。
すると「もっと医師や看護師の数がほしい」という意見が多方から上がってきました。
長期的なビジョンでは、人材を増やす課題は解決をすることができますが、眼の前にある問題を打開する解決策には繋がりません。
医師の数や、看護師の数が少ないとしても、質の高い医療を提供する為にできる「しくみ」はないだろうか。
眼前に広がる課題解決に対する「健育会グループの理事長としてのあり方」を考え始めたのです。