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高齢者の終末期医療に取り組むきっかけ
- 内科医として、認知症の勉強を十数年前に始めた。今では認知症が専門としている。
- 2007年に海外での認知症の医療と介護について勉強したいと思い、スウェーデンのストックホルムに行った。
- その時、認知症について勉強に行ったつもりだったが、案内して下さった先生から、認知症以外にスウェーデンの高齢者の終末期医療についても学ぶことになった。
- 当時より20年くらい前までは、高齢者が老衰になったり病気の最後になったりすると点滴や経管栄養をやっていたが、「今では高齢者は食べるだけ飲めるだけで死んでいくんですよ」「患者さんが嫌というのであれば、縛ってまで点滴をすることはない」と教えられた。
- その話を聞き「え!点滴もしないのですか?」と聞くと、「ベッドの上で点滴で生きていて何の意味があるのですか?」と返された。
- スウェーデンに行くまで、点滴や経管栄養は当たり前だと思っていた。また、2000年頃から経鼻栄養が胃瘻になり、鼻のチューブがなくなって良かったと喜んでいたくらいだった。一人でも多くの患者さんを胃瘻に変えなくてはと思っていたくらいであり、治療を何もせずに食べるだけ飲めるだけで死んでいっていいとは全く考えていなかった。
- この時の驚きが、終末期医療に関わるきっかけとなった。
日本の現状
- 日本では、高齢者が老衰になって食べられなくなってくると、点滴や経管栄養、IVH、胃瘻が行われるのが普通である。
- 外国の医師が日本の高齢者医療を視察した時に「日本には物を言わない高齢者がいっぱいいる」と驚いたという話も聞いた。私たちには当たり前の光景が、外国の医師にとってはびっくりする光景であったということだろう。
- 経鼻栄養、胃瘻、気管カニューレ、拘束など、高齢者に当たり前に行われていることで、高齢者が苦しんでいる姿を見ると、今では拷問をしているような気持ちになる。また、そのような病棟で働いている人たちは、「自分が年老いても、このような終末期医療は受けたくない」「高齢者になるのが怖い」という思っている。
- 家族は「夫は私の生き甲斐だから、1日でも長く生かしてほしい」という方もいるし「胃瘻をしたのが果たして良かったのか悪かったのか」と悩む方もいる。
- 私は「拘束を減らしましょう」というテーマの勉強会をやっているが、ある場所で話をすると「でも、先生。私たちは患者さんの命を守らなければなりませんから」と言われたことがあったが、私はその話を聞いて、「守らなくてはいけない命とは何なのか」と自問した。