1995年に父が亡くなり、私は健育会グループの理事長に就任しました。当時、病院の経営は数字的には決して悪い状況ではありませんでしたが、組織内部については長期間存続している他の企業にありがちな状況で、組織に活力がなく、こう着状態にありました。そのような中、組織の健全化を図るために一番に取り組んだことは「組織としての方向性を示すこと」です。それが健育会の理念である「医療のMVV」です。私はMVVについて、その浸透のために繰り返し同じことを、しかも具体的に伝え続けています。
例えば、「質の高い病院」という言葉でも、「高度医療を提供する病院」「接遇ができてる病院」など、人それぞれ考えることは違うと思います。一般的には大学病院など、高度な医療を提供している病院が質の高い病院と思われています。大学、そして大学病院に勤務する皆さんにこのようなことをお伝えするのは失礼かもしれませんが、高度な医療を提供している病院は高機能な病院であり、高機能病院がイコール必ずしも質の高い病院ではない、と職員には伝えています。
では、どのような病院が質の高い病院かと言いますと、それぞれの患者さんの情報を、それに関わる者全員が共有し自分たちがやるべきことを適正に把握し、行動に移してている、すなわちチーム医療が確実に出来ている病院が質の高い病院だと、具体的に説明を加えています。
このようにMVVについては理事長就任当初から、職員へ繰り返し伝えてきました。医療職は人の入れ替えも多いのが現状ですが、だからこそ繰り返し伝え続けていく事が大切なのです。
そんな中、MVVが本当に浸透していると感じたのは、先にご紹介した震災の時でした。石巻港湾病院においても、他の病院・施設においても、職員たちがグループ一丸となって助け合い復旧を成し遂げたとき、私が伝え続けてきたことは正しかったと確信しました。
また、MVVと共にに大切にしているのは各病院・施設における病院・施設理念です。現在、健育会グループ全体で、職員全員が理想の病院・施設像を描き共有するために外部の力も借りて「理念プロジェクト」に取り組んでいます。これは、「健育会グループに所属する職員全員が、同一の価値観を持ち、同じ目標に向かって進むこと」を目標に行っています。